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大阪高等裁判所 昭和58年(く)172号 決定

少年 S・N(昭四〇・八二五生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年作成の抗告申立書記載のとおりであり、要するに、少年は、(一)本件非行事実である道路交通法違反(軽自動二輪車の無免許運転)を犯しておらず、(二)自傷事故に遭つて以来無免許運転をしていないから、少年が本件非行事実を犯し、無免許運転を常習的に反覆したと認定した原決定には事実誤認があり、また、少年を医僚少年院に送致した原決定の処分は著しく不当である、というのである。

(一)  よつて、所論にかんがみ少年保護事件記録及び少年調査記録を調査して検討するのに、少年は、原審の審判廷において、本件無免許運転の事実を認め、運転したのは自分の軽自動二輪車(×京を××-××)であると陳述していたばかりでなく、右無免許運転で、検挙された際にも、右違反を現認した警察官に対して「昨年、免許取消しになり、免許がとれないので無免許で乗つた」と自供し、交通事件原票中の「私が、上記違反をしたことは相違ありません。」等と印刷された供述書欄に自己の氏名を署名し、指印していたことが認められるのであり、これらに徴し、少年が右車両を無免許運転したものと優に認定することができる。少年は、顔見知りのAから頼まれ、二輪車販売店から右車両を借受けて同人に貸し、同人が無免許運転をしているのを警察官に現認され、少年の待つていた所に戻つて来て逃走したため、警察官から同人と同じ身なりをしていた少年が右車両を運転していたとされ、前記供述書に無理失理指印させられたものであると弁解しているけれども、右弁解は本件抗告においてはじめて主張するに至つたものであり、前記認定事実に照らし到底信用できない。

次に、少年の無免許運転の常習性についても、前記各記録によれば、少年は、昭和五七年八月二四日軽四輪貨物自動車の無免許運転、業務上過失傷害等により保護観察に付され、同五八年四月一八日原付自転車の無免許運転により罰金二万円に処せられたにもかかわらず、同年六月二一日本件非行に及んだのであり、自傷事故(同五七年一一月二七日)に遭つて以後も、何らの免許もないのに、原付自転車二台、軽自動二輪車一台(本件違反車両)、乗用車一台をローンで次々と購入して、これら車両を乗り廻し、本件後も乗用車の無免許運転で検挙されたり(ただし、未送致)、事故を起したことが窺われるのであつて、これらに徴し、少年が無免許運転を常習的に反覆していたことは明らかであるということができる。以上のとおり、原決定には所論の点につき事実誤認は見当らない。

(二)  そこで更に、少年に対する処遇の当否について考えるに、前記各記録によれば、少年は、実母、養父、異父妹の家庭内で愛情欲求が充足されず、社会的にも対人関係を円満に保つことができないため、その心理的不満を解消する手段として、単車、自動車を乗り廻しているのであつて、無免許運転の反覆については、今まで家庭内でつらい思いをしてきたのであるから社会的にも許されるべきだと考えているようであり、これまで無免許運転について前記の各処分を受け、更に、本件でも検挙され観護措置決定により鑑別所に収容されたにもかかわらず、全く反省している様子は窺われず、無免許運転等交通事犯を繰り返す虞れは高いとみられるのであり、更に、最近では前記単車等の購入による三五〇万円に近い負債を抱えながらアルバイト先を辞め、単車仲間の集る喫茶店に通い、自宅にも戻らず家出同然の状態にあつたことが認められること、少年を指導、監督すべき実母と養父には、少年が実母らを憎んでいるため多くを期待できない状況にあること、昭和五八年一一月七日付保護観察状況等報告書にも少年が保護観察を忌避し保護観察による指導が困難であると指摘されていること、その他記録によつて認められる少年の資質、性格、生活態度、交友関係、保護環境等諸般の事情を総合すると、少年の規範意識を喚起し、社会性を身に付けさせるためには、少年を相当期間施設に収容し、矯正教育を施す必要があると考えられるから少年の右下腿骨についての再手術の必要性から少年を医療少年院に送致した原決定の処分が著しく不当であるとは認められない。論旨は理由がない。

(なお、当裁判所は少年の性格の歪みが無免許運転の反覆や浪費につながつていると考えられるにしても、交通関係以外の一般非行を犯すおそれは顕著でないと認められるので医療少年院で治療後は一般短期処遇が相当と考える。)

よつて、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 八木直道 裁判官 谷口敬一 中川隆司)

抗告申立書〈省略〉

〔参照〕原審(京都家昭五八(少)一五三二四号 昭五八・一一・二一決定)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(非行事実)

司法巡査作成の交通事件原票(A二六七六〇九)記載の違反事実と同一であるから、これを引用(編略)する。

(適条)

道路交通法一一八条一項一号、六四条

(処遇理由)

少年は、昭和五六年一二月二一日有免講習不処分(二輪車による速度超過)、同五七年八月二四日保護観察(自転車三台及び自動車二台窃取、軽四輪無免許運転並びに業務上過失傷害)、同五八年四月一二日検察官送致(原付自転車無免許運転)の各処分を受けているものであるが、再度、本件非行に及んだものである。

本件調査及び鑑別結果によれば、少年の知能は普通よりやや優れているが、愛情欲求の不充足感が強く、対人関係が円満に保てず、孤立しがちであり、ひがみや劣等感に支配され、ものごとを被害的な視点からしかとらえられず、かつ思考の柔軟性が極めてとぼしい性向が認められる。

少年の小学校入学前に実母と現養父が結婚し、その後異父妹が出生したこと、実母が養父の手前もあり、少年に対して厳しく監護し、体罰を加えたことなどから、少年には上記のような性格が形成され、情緒不安定のまま家庭内暴力が始まり、これを矯正するため戸塚ヨットスクールに預けられたことから、更に両親を憎むようになり、それと共に単車を乗り廻すことによつて内面的ないらだちを忘れようとして、これにのめり込み、単車、乗用車の無免許運転を常習的に反復し、また両親に支払義務を負わせることにより報復すると称して、単車、乗用車等をローンで次々に買入れ、その支払総額が合計四〇〇万円に達するに至つている。

このような少年の性格の歪みが、無免許運転の反復、過度の浪費につながつていると考えられるので、この際は少年を施設に相当長期間収容して、矯正教育を施し、社会規範意識、社会適応性を身につけさせる必要があると思料する。

なお、少年は昭和五七年一一月交通事故により右下腿骨複雑骨折の傷害を受け、その手術の際の鋼片を取り出す必要があるので、取敢えず医療少年院に送致する。

よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条、少年院法二条を適用して、主文のとおり決定する。

裁判官 白川清吉

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